私たちの運営するこの日本語バイブル・スタディーでは毎年年末に、家内が「ゆく年くる年」と題して一年のまとめと新年への抱負を挿絵入りで掲載しています。今年の年末はこの聖句はどうかしら、と言って教えてくれたのが、ヤコブ書5:8です。彼女のメインの聖書はEngilsh Standard Version (“ESV”) です。そこには、こう書かれています。
“You also, be patient. Establish your hearts, for the coming of the Lord is at hand.” (English Standard Version)
James 5:8, English Standard Version
この聖句を見て、”establish"=「確立する」という言葉に少し違和感を感じました。ESVは信頼できる聖書の翻訳です。でも、「心を確立する」ってどういう意味なんだろう?と思ったのです。英語のestablishという単語はどうしても建物が建立したり、組織が設立されたり、という言葉使いでよく耳にしているので、「心」に対して使われるのには少しピンときにくかったのです。そこで少し掘り下げて学んでみようと思いました。
学ぶにあたって:留意点
私の掘り下げ方は自己流です。色々な手引き書や、参考書、注解書、辞典、あるいはオンラインの情報があるでしょう。しかし聖書を学ぶ時は何より聖霊に祈り求め、聖書全体のストーリーをわきまえることが大事だと思います。特に私は木を見て森を見ず、ということに陥りやすい傾向があるので、全体像を常に心に留めるように注意しています。
オンラインの情報や参考文献などは信頼できる牧師先生が薦める著書、著者、文献だけに絞っています。
聖書翻訳を比べる
まず色々な聖書の翻訳を比べてみました。新改訳、口語訳、新共同訳、そして私が良く使っているNIV(New International Version), ESV (English Standard Version), NASB (New American Standard Bible), AMP (Amplified Bible) で同じ箇所を比べました。次の通りです。該当する言葉に太字を私がつけました。
- [新改訳] あなたがたも耐え忍びなさい。心を強くしなさい。主の来られるのが近いからです。
- [口語訳] あなたがたも、主の来臨が近づいているから、耐え忍びなさい。心を強くしていなさい。
- [新共同訳] ‘あなたがたも忍耐しなさい。心を固く保ちなさい。主が来られる時が迫っているからです。 ‘
- [NIV] You too, be patient and stand firm, because the Lord’s coming is near.
- [ESV] You also, be patient. Establish your hearts, for the coming of the Lord is at hand.
- [NASB] You too be patient; strengthen your hearts, for the coming of the Lord is near.
- [AMP] You too, be patient; strengthen your hearts [keep them energized and firmly committed to God], because the coming of the Lord is near.
原語・語源を調べる
日本語の聖書訳では心を強くする、固くしておく、と訳されています。英語訳では、NIVはしっかりと立つ、と訳されて、ESVでは心を確立せよ、と訳されています。オンラインでストロング・コンコルダンスで検索してみました。コンコルダンスとは、聖書に出てくる語句を集めた辞書で、ある特定の言葉が聖書全体でどこでどのように使われているかを検索するのにとても役に立ちます。
そして、ストロング・コンコルダンスの素晴らしいところは、聖書の語句の原語に番号が付けられており、ある特定の原語の単語が解釈され、訳語とその聖句の箇所が検索できるようになっていることです。
つまり、単純に聖書の単語をグーグル検索しても、使っている単語は同じでも原語が異なったり、一つの原語がさまざまな訳され方で使われているケースが多々あります。でも、ストロングで参照した原語のナンバーを索引すれば、全て同じ原語の単語がリストアップできて、比較対象することができます。
しかも、現在では、簡単にオンラインで調べられます。その昔は(かなり昔ですが)ストロング・コンコルダンスは分厚い辞典で、図書館や牧師の書斎などにしかありませんでした。最寄りのクリスチャン・ブックストアで立ち読み・検索せねばならないこともあったくらいです。
ストロング・コンコルダンスで ”establish”に該当する単語を検索すると、単語のギリシャ語番号は4741番で、原語(ギリシャ語)は「ステーリゾー」、と書かれています。この単語は派生語も含め、新約聖書に13回登場することがわかり、「しっかりと固定する、強める、励ます、」というように訳されています。興味があれば以下の聖書の箇所を参照してください。
ルカ 9:51、ルカ 16:26、 ルカ 22:32、ローマ 1:11、ローマ 16:25、テサロニケ第一 3:2、テサロニケ第一 3:13、テサロニケ第二 2:17、テサロニケ第二 3:3、ヤコブ 5:8、ペテロ第一 5:10、ペテロ第二 1:12、黙示録 3:2
聖霊のリード
これで ヤコブ 5:8は、心をステーリゾーする、つまり「強める、ブレないようにする、揺るがせない」という意味で、良く理解できました。ビルがしっかりと設立されているように、考えや信仰がしっかりと固められるように、ESVでは “establish” という単語が使われていたのでした。つまり、心を強めよ、揺るがないようにしっかり地に足がついていなさい、と語っています。
ヤコブは信徒たちに、「周りを見れば偽の信仰者たちや、間違った教え、そして心を騒がせることばかり見えるかもしれないが、信仰の鍵はイエスの再臨を耐え忍びながら待つことである。だから心を落ち着けよ」と言っているようです。
しばしば聖霊が聖書の他の箇所を思い起こさせてくれたり、周囲のクリスチャンや、出来事を通して語りかけてくれます。今回も同様です。いくつかの聖書の箇所が思い起こされました。
- ピリピ 2:12-13 「そういうわけですから、愛する人たち、いつも従順であったように、私がいるときだけでなく、私のいない今はなおさら、恐れおののいて自分の救いの達成に努めなさい。神は、みこころのままに、あなたがたのうちに働いて志を立てさせ、事を行わせてくださるのです。」
- ローマ 5:2-5 「またキリストによって、いま私たちの立っているこの恵みに信仰によって導き入れられた私たちは、神の栄光を望んで大いに喜んでいます。そればかりではなく、患難さえも喜んでいます。それは、患難が忍耐を生み出し、忍耐が練られた品性を生み出し、練られた品性が希望を生み出すと知っているからです。この希望は失望に終わることがありません。なぜなら、私たちに与えられた聖霊によって、神の愛が私たちの心に注がれているからです。」
- ペテロ第二 1:3-12 「というのは、私たちをご自身の栄光と徳によってお召しになった方を私たちが知ったことによって、主イエスの、神としての御力は、いのちと敬虔に関するすべてのことを私たちに与えるからです。その栄光と徳によって、尊い、すばらしい約束が私たちに与えられました。それは、あなたがたが、その約束のゆえに、世にある欲のもたらす滅びを免れ、神のご性質にあずかる者となるためです。こういうわけですから、あなたがたは、あらゆる努力をして、信仰には徳を、徳には知識を 知識には自制を、自制には忍耐を、忍耐には敬虔を、敬虔には兄弟愛を、兄弟愛には愛を加えなさい。これらがあなたがたに備わり、ますます豊かになるなら、あなたがたは、私たちの主イエス・キリストを知る点で、役に立たない者とか、実を結ばない者になることはありません。これらを備えていない者は、近視眼であり、盲目であって、自分の以前の罪がきよめられたことを忘れてしまったのです。ですから兄弟たいよ。ますます熱心に、あなたがたの召されたことと選ばれたこととを確かなものとしなさい。これらのことを行っていれば、つまずくことなど決してありません。このようにあなたがたは、私たちの主であり救い主であるイエス・キリストの永遠の御国に入る恵みを豊かに加えられるのです。ですから、すでにこれらのことを知っており、現に持っている真理に堅く立っているあなたがたであるとはいえ、私はいつもこれらのことを、あなたがたに思い起こさせようとするのです。」
- ヨハネ16:33「わたしがこれらのことをあなたがたに話したのは、あなたがたがわたしにあって平安を持つためです。あなたがたは、世にあっては患難があります。しかし、勇敢でありなさい。わたしはすでに世に勝ったのです。」
心を騒がせ、動揺させる出来事やニュースはたくさんあります。個人的にも不安を掻き立てられてしまうようなことも起きています。でも、ヤコブ、ペテロ、パウロが語るステーリゾーを思い、イエスの語る平安が心を満たすよう祈り求めるのです。